父親のギテクは、なぜ刺したのでしょうか?2019年に公開された韓国映画「パラサイト」は、世界に広がる格差社会を痛烈に描き話題になりました。世界的にも評価され、アカデミー賞を始めとする世界主要映画賞を総なめにした名作です。
映画終盤で、父親のギテクは包丁を持ち、パク一家の家長ドンイクを刺しました。なぜギテクはドンイクを刺したのか、映画で明確に語られることはありません。
父親のギテクがドンイクを刺した理由を考察すると、見えてきたのは半地下家族が抱える闇でした。
- 映画「パラサイト 半地下の家族」でギテクがドンイクを刺した理由を考察
- 映画「パラサイト 半地下の家族」で取り上げられた臭いの意味を考察
父親ギテクはなぜ刺したのか?
ギテクは、暴力的な性格とは無縁の優しく温和な性格です。また最後に刺すことになるドンイクに対しても、好印象を持っていました。むしろ尊敬していたほどです。
そんな優しいギテクが、尊敬をしていたドンイクを刺すのは考えられません。しかし、最後にギテクがドンイクを刺したのは紛れもない事実。まずは胸を刺す理由を考察する前に、どういう経緯があったのか辿ってみましょう。
ギテクの性格は?性格は伏線になっていた!
先ほども述べたように、ギテクは温和な人物で一歩後ろに下がって物事を見守る性格です。
子供達が金持ちのパク一家に入り込もうとして躍起になっている中でも、ギテクは穏やかに見守っていました。キム一家が全員パク家に就職できた時は、大騒ぎせずに控えめに喜んでいたほどです。
一方で、切れると何をしでかすかわからないという一面も持っています。ドンイクは、ギテクの性格を見抜いていました。「言葉や行動が度を超す瀬戸際に立っているけど、絶対に一線を超すことはない」と。
ドンイクがギテクの性格を見破ったのは、車の中での出来事でした。ギテクがドンイクを乗せて運転している中、目の前にトラックが飛び出ました。するとギテクは暴言を一言。
優しい人ほど、激怒した時に何をしでかすかわからないものです。
ドンイクを刺す前の伏線!スイッチを入れたのは?
ギテクがドンイクを刺したのは突発的なものですが、スイッチは既に入っていました。
パク一家の末息子ダソンの誕生日を祝うため、パク一家は家を空けることになります。パク一家の留守を良いことに、キム一家はパク家を満喫。そんな中、元パク家家政婦のムングァンが訪れました。
パク家の地下に、ムングァンの夫・グンセが住みついていたのです。ムングァンはキム一家の正体を掴み、「パク一家に取り入って安定収入を得る」という計画は破綻へ……。
キム一家は秘密を守るため、家族総出でムングァンとグンセを地下室に閉じ込めます。閉じ込めた拍子に、ムングァンは頭を強く打ち死亡してしまいました。
秘密は守られたものの、災難は続きます。なんと大雨の影響で、キム一家は住む場所を失ってしまったのです。続く災難で家族はボロボロ。家族を愛しているギテクにとっては、耐えがたい苦痛でした。
そして、ドンイクの妻であるヨギョンの「大雨のお陰で良い天気になった」というセリフで、ギテクの爆弾のスイッチが入ってしまったのです。
決定打
ギテクが一線を越えてしまった原因は、ドンイクが鼻をつまんだからです。
パク家の庭では、ダソンの誕生パーティーが開かれていました。誕生パーティーに現れたのが、キム一家が地下室に閉じ込めたはずのグンセです。
グンセは包丁を持ち、ギテクの娘ギジョンを刺しました。ギジョンが刺され、ギジョンの母親でギテクの妻であるチュンスクは激しく抵抗。ギジョンをすぐに病院に運び、チュンスクを助けなければ命はありません。
しかしドンイクが助けようとしたのは、単に気絶しているだけのダソンです。ドンイクは運転手であるギテクに、車の鍵をよこすように指示。ギテクは指示通りに車の鍵を投げると、グンセの体の下に潜り込んでしまいました。
ドンイクは鼻をつまみながら、グンセの体の下にあった鍵を取ります。鼻をつまんだ姿を見たギテクは、包丁を持ってドンイクの胸を刺したのでした。
臭いから考察
ギテクがドンイクを刺した理由を考察してみると、「ドンイクが鼻をつまんだ」ことが判明しました。ドンイクが鼻をつまんだ理由は、グンセが臭いからでしょう。
ドンイクはグンセだけではなく、ギテクからも臭いがすると感じていました。ギテクはドンイクの運転手です。車にいるためか、ギテクの臭いを察知。臭いを「古い切り干し大根のような臭い」「芋洗い下古い布巾の臭い」と形容しました。
しかし「臭い」という理由だけで、ギテクはドンイクを刺すでしょうか?ギテクに怒りのスイッチが入っていたとはいえ、動機としては弱い気がします。そこでドンイクが感じていた臭いについて、考察してみました。
臭いの正体は?
臭いの正体は、半地下の臭いです。言い換えると、下流層独特の臭いでした。キム一家の臭いを最初に指摘したのは、パク一家の末息子ダソンです。
キム一家が住む半地下の家はは太陽の光が入らず、酔っ払いの粗相も日常茶飯事です。映画の登場人物達の服装から察するに、時期的には春の終わり頃~夏の初め頃でしょう。
映画のシーンだけの判断になりますが、半地下の家にエアコンは見当たりません。かなりカビ臭い臭いが漂っていたはずです。
かび臭い半地下の臭いは、半地下に住む人独特のものです。臭いが染みつき過ぎて、ギテク本人は気がついていません。
半地下は下流層の象徴
半地下独特のカビ臭さは、下流層を象徴したものです。
根拠は、ギジョンの「(臭いは)半地下の臭いよ。ここを出れば消える」のセリフ。お風呂で使う石鹸を変えても、洗剤を変えても、半地下を出ない限り臭いが取れることはありません。臭いはキム一家半地下家族の象徴です。
ドンイクが鼻をつまんだということは、半地下家族の象徴である臭いを拒絶したことになります。あるいは、半地下に住む家族を見下していたという見方もできるでしょう。お金持ちが下流層を差別する姿は、ギテクにとって耐えられるものではありません。
仕方なく身に着いてしまった臭い
キム一家についた臭いは、キム一家自ら希望してつけた臭いではありません。
パク一家に”パラサイト”する前から、キム一家は半地下から抜け出そうとしていました。しかし現実は甘いものではなく、手がけた事業は大失敗。ギテクは過去に台湾カステラ屋やキチン屋を立ち上げるも、上手くいかなかったのです。
キム一家がパク一家に就職することにより、半地下から抜け出せる可能性が出て来ました。しかし、キム一家はムングァンとグンセの存在と大雨で大打撃を被ります。大雨で住む場所を失ったキム一家の暮らしは酷くなり、臭いも強くなったのです。
キム一家に染みついた臭いに、ドンイクは鼻をつまみ拒絶。臭いを拒絶したドンイクの姿を見て、ギテクは刺してしまったのです。ドンイクを刺した後、ギテクはパク家の地下に潜り生活。ドンイクに泣きながら謝り、何とか耐え忍んで生活してきました。
豪邸の地下室に父親が住んでいることを察知したギウは、約束します。いつかお金持ちになり豪邸を買い取り、父親を地下室から出すことを。ちなみにギウの給料で豪邸を購入しようとなると、547年かかるそうです。
まとめ
ギテクがドンイクの胸を突き刺した理由を考察した結果、「下流層が持つ上流階級への怒りによるもので。」という答えに辿り着きました。
映画「パラサイト」は韓国が舞台ですが、日本も他人事ではありません。日本の貧困層は15.7%と、G7加盟国の中で2番目に多い割合となっています。ギテクが刺した理由を突き詰めると、見えてきたのは抗えない格差社会の闇でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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