まだまだとはいえ、LGBTへの価値観が変わりつつある昨今。そういったアップデートされる価値観を牽引するひとつの表現として映画があります。
1960年代からLGBT(特にゲイ)を扱った作品は登場していますが、今回は2000年代から2010年代まで、近年のLGBTを扱ったおすすめ作品を5つ紹介していきます。
便宜上、LGBTという言葉を使用していますが、映画の登場人物の男性が男性を好きになったとしても本人が公言しない限り、ゲイと断言できません。(女性の場合もしかり)
- LGBT映画おすすめ作品
- LGBT映画を見た人の感想
- LGBTを映画で描く意味
LGBTおすすめ人気映画
君の名前で僕を呼んで(2016)
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジェームズ・アイヴォリー(原作:アンドレ・アシマン)
出演者:アーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ他
1983年のイタリアを舞台に17歳のエリオと大学院生のオリヴァーのひと夏の恋を描いた今作は公開後、圧倒的な人気を誇っています。オスカーで複数部門のノミネート、脚色賞を受賞している専門家からの評価も高い作品です。
エリオは秀才で早熟しているようで、自身のアイデンティティを模索している思春期らしい複雑さを持ち合わせています。そんな中、父の助手としてやってきたオリヴァーは大人の男性の魅力を持ち合わせています。
イタリアの田舎町の美しい風景を淡い色彩で表現し、美しい音楽とともに描かれる二人の恋は、切なくも感動となって観る者の心に届きます。
リリーのすべて(2015)
監督:トム・フーパ―
脚本:ルシンダ・コクソン(原作:デヴィッド・エバーショフ)
出演者:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル他
実在したトランスジェンダーの女性(体の性は男性から女性に)を題材とした小説をもとに作られた映画は、複数のオスカーノミネート、助演女優賞受賞のほかに数々の賞を受賞した作品です。
1920年代のデンマーク、世界初の性別適合手術を受けたリリー・エルベとその妻、ゲルダの愛の物語です。
トランスジェンダー、リリー・エルベを演じたのは、前年「博士と彼女のセオリー」でみごとに車いすの物理学者ホーキングを演じ、オスカー主演男優賞を受賞した、エディ・レッドメイン。
「女性の格好をすることより、リリーの内面を確立するのに苦戦した」と語る通り、エディは見事に差別や暴力、体の性別を変える困難を演じきっています。
そんなリリーの変化に戸惑い、葛藤しながらも最終的には一番の友としてリリーを支える妻ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルの演技も素晴らしく、トランスジェンダーとその周りが抱える悩みを描ききっています。
ムーンライト(2016年)
監督:バリー・ジェンキンス
脚本:バリー・ジェンキンス、タレル・アルバン・マクレイニー
出演者:アシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、トレヴァンテ・ローズ、マハーシャラ・アリ他
タレル・アルバン・マクレイニーの半自伝的な戯曲をもとに作られた今作は、主人公シャロンの人生を三章に分け描いています。
一章リトルでは、学校でいじめにあい、薬物中毒の母との暮らしに耐えながらも、ドラックの売人フアンとその恋人テレサとともに時間を過ごす少年シャロンを描きます。
二章シャロンでは、ティーンエイジャーになったシャロンがなおいじめと母に耐えながら、自身のアイデンティティを模索する様子が描かれています。ケヴィンと親しくなりますが、いじめをきっかけにケヴィンに裏切られシャロンは逮捕されます。
三章ブラックでは、アトランタで大人になったシャロンがあれほど忌んでいた薬物の売人になり、ケヴィンと数年ぶりの再会を果たします。
主人公を演じた三人の演技は繊細でとても美しく、フアンを演じたアリはオスカー助演男優賞を受賞した演技で観客を魅了します。
またLGBTをあつかった作品としてはじめてオスカー作品賞を受賞しています。
ゲイとして、薬物と密接な関係を持つ人間としての葛藤を丁寧に描いています。
「月の明かりに照らされた黒人の子どもは青く見える」のセリフどおり、人物の肌を美しく見せる色使い、誌的なセリフの数々、均等を保った構図、ため息をついてしまうほど美しい映画です。
ブロークバックマウンテン(2005)
監督:アン・リー
脚本:ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ
出演者:ヒース・レジャー、ジェイク・ジレンホール他
今作は、主要な映画館ではじめて上映された男性同士の恋愛を描いた西部劇です。
アメリカ中西部を舞台に、1963~1983年までの二十年間、周りに隠れながら愛し合ったイニスとジャックを描いています。アカデミー賞三部門受賞、五部門にノミネートされた映画です。
伝統的な西部劇の表現方法をとりながら、周囲から隠れて愛し合わなければならない葛藤を見事に描いています。特にヒース・レジャーの演技はすばらしく、うまくいっていなかった妻との関係、世間から隠れなければならない苦しさ、それでも愛してしまう気持ちの葛藤をみごとに演じています。
マイ・マザー(2009)
監督:グザヴィエ・ドラン
脚本:グザヴィエ・ドラン
出演者:グザヴィエ・ドラン、アンヌ・ドルヴァル、フランソワ・アルノー
今作は、若きカナダの天才監督グザヴィエ・ドランが描く処女作で、半自伝的な作品です。
母への愛憎、恋人と過ごす楽しい時間、ドラッグ。ドランが演じる主人公ユベールが抱える悩み、映画のテーマは普遍的なものであるかもしれませんが、「マイ・マザー」は異質なまでの存在感を放っています。
ドラン独特の構図で描かれるユベールの葛藤は、美しくも観客に心を締め付けるような苦しさを与えます。
ドランはLGBTを多く描きながら、この作品では特に、それを物語の中心に持っていきません。あくまでユベールの抱える多くの悩みのうちのひとつになっています。けして軽視しているわけではなく、当たり前に描いています。その表現が、独特のリアリティを生みます。
ドランはほかにも「わたしはロランス」でトランスジェンダーを描いており、こちらも非常に評価の高い作品です。主人公(性自認女性)は女性と交際しており、同じく性自認女性のトランスジェンダーと女性のカップルも登場するので、レズビアンについて扱っている作品であるともいえます。
LGBT映画を見た人の感想
ムーンライトの感想
傑作。
かつてここまでブラックの肌を美しく映した映画があっただろうか。
印象的なのはマハーシャラ・アリ演じる主人公シャロンの叔父(本文ママ 追記(筆者):フアン)が主人公を海に連れ出すシーンだ。淡い水色の空と緑がかったターコイズブルーの海に黒い肌が光を受けて煌めいている。
そして何より脳内に焼き付いているのが映画のタイトルでもあるムーンライトに照らされ浜辺で感慨に浸るシャロンの横顔である。濃い紫の夜空の下白っぽい月の光が彼の肌をキラキラと照らす。月の下で遊ぶ子供たちの話が半ば神話的に挟まれる。
黒い肌の美しさを最大限に引き出し、夢と現実の境界を曖昧にした繊細な映像表現がこの映画の魅力である。
出典:Filmarks/@hannn_nn
ムーンライトは、全章で色彩を変えています。第一章では肌を美しく見せるように編集されています。
だからこそ、タイトル通りの青に光る黒人の肌の美しさが際立っているのですね。
君の名前で僕を呼んでの感想
最後のお父さんの言葉ひとつひとつが深く胸に響いて涙が止まらない。
苦しみと切なさをそれぞれの方法で癒してくれるエリオの両親が大好き。
ラブストーリー物ってあまり観ないんだけど、恋と愛の軌跡を描いた作品で一番好きかも
出典:Filmarks/@honey3lk
まだまだゲイに対するあたりが強い中、男性を好きになり、そして離れ離れになったエリオを両親は優しく包み込みます。
ブロークバックマウンテンの感想
あらすじ読まずにキャストだけで選んで観たので最初は戸惑いましたが、なんというかムーンライトとは違う熱い友情を超えた愛を感じますよね。
背景の自然もBGMも雰囲気出てるし、切なさ半端なかったです…。
ビターだけど純粋で美しい物語だと思います。
カナディアン・ロッキーで撮影されたブロークバックマウンテンは、アメリカ中西部の大自然を描き出すことに成功しています。
まとめ
まだまだLGBTへの差別、偏見はなくなりませんが、確実に前に進んでいます。
映画や芸術はそうした差別に対し間違っていると声をあげる媒体としての役割を担っています。10人に1人は性的マイノリティであると言われる中、苦しい思いをする人が一人でも減るように、その痛みや幸福を共有、代弁するためにも、これらの作品は存在しています。もちろん当事者でない人々が「知る」うえで重要な作品たちでもあります。
ムーンライトでは、LGBT映画念願のオスカー作品賞を受賞し、一歩ずつ普遍的なテーマへと向かっています。ここでは紹介しきれないほどの名作の数があるのにも頷けます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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