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今回は2019年にテレビドラマにリメイクされ注目を呼んだ監督ジョー・ライト、主演シアーシャ・ローナンの映画『ハンナ』について紹介させていただきます。
ジョー・ライト監督といえば2005年に公開された「高慢と偏見」を原作にした『プライドと偏見』で数々の賞を受賞されましたね。あの映画、私も見ましたが主演のキーラ・ナイトレイがとにかく美しかった印象があります。
また、主演のシアーシャ・ローナンも若干13歳にして『つぐない』でアカデミー賞助演女優賞を受賞され、その後も数々の作品で主演助演に拘らず注目を集めるヒットメーカー女優です。
お2人のタッグは『つぐない』以来ですのでその点でも話題になりましたよね!
また、助演を演じるのはあの『ロード・オブ・ザ・リング』にガドリエル役で出演していたケイト・ブランシェットと実力派揃いの映画となっております。
母ヨハンナはなぜ、誰に殺されたの?
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主人公のハンナには母親も友人も特にいません。人里離れたフィンランドの山奥で狩りをしながら住んでいます。文明の利器の一つすらない場所で父・エリックとサバイバルな毎日を過ごしています。
見出しにもあるようにハンナの母・ヨハンナはハンナが物心つく前に殺されています。ヨハンナはまだハンナが物心つく前に亡くなったので、残念なことにハンナにヨハンナの記憶は一切ありません。
簡単に結論だけ申し上げるとヨハンナはCIA職員のマリッサ・ウィーグラーに殺されました。
ではマリッサとは何者なのか。何故ヨハンナはCIAに殺されなければならなかったのか。一つずつ説明します。
マリッサとは誰?
マリッサはCIAの現職員です。実はハンナの父・エリックはCIAの元職員です。
ではエリックは何故フィンランドの山奥に現在いるのか。それは後にも述べますが全てハンナを守るためなのです。
元々ヨハンナはCIAの職員でも何でもない一庶民ですが、殺された理由はハンナが深く関わっています。実はマリッサは当時ハンナも一緒に殺そうとしていましたが、ハンナだけはエリックに助け出されたのです。
なのでマリッサは今もハンナを殺そうとしています。
作中何度も「グリム童話」が出てきますが、これはこのマリッサとハンナの関係のメタファーになっています。
グリム童話には様々なお話がありますが、この映画『ハンナ』では赤ずきんや白雪姫がメタファーとなっており、それを示唆する描写もいくつかあります。(ハンナがオオカミの子供をかわいがったり、最後死んだはずのマリッサがオオカミの口から出てきたり、マリッサが歯を磨くために鏡を見るシーンだったり。)
懸命に逃げる赤ずきんのハンナ。それを追いかける魔女のマリッサ(魔女なのでマリッサの立ち位置はどちらかというと白雪姫の王妃ですね)。そしてそれを助ける狩人のエリック。
狩人は赤ずきんでは純粋に赤ずきんを助ける登場人物ですが、白雪姫での狩人は王妃の命令で白雪姫を殺そうとするが結局は白雪姫の愛らしさにより自分の命を賭して逃がしてしまいますよね。
そういう意味でもエリックはグリム童話における狩人の立ち位置そのものですよね。だってエリックは元々悪い王妃マリッサの僕だったのですから。
マリッサは何故ヨハンナを殺したの?
CIAでは当時ポーランド・ガリンカ研究所で「ガリンカ計画」(ドラマ版では『ウトラックス計画』)という研究が行われていました。マリッサはこのガリンカ計画の中心人物でした。
この「ガリンカ計画」は遺伝子操作についての研究を行っていたのですがその目的は「完璧かつ最強の兵士を作ること」でした。その遺伝子操作で主に行われていたのは胎児の悲しみや慈しみの感情を貧しくさせ、その分筋力を向上させ、感覚を鋭くするというものでした。
でも、こんな非人道的な研究を容認する妊婦さんなんていませんよね?そこで堕胎を望む妊婦が集まる堕胎専門のクリニックに行き、そこで妊婦さんたちに個人的に協力を依頼したのです。その協力をお願いされた妊婦の一人がまさしくハンナの母・ヨハンナだったのです。
しかし、2年後にこの計画は中止となります。だから、この非人道的な『ガリンカ計画』は闇に葬られなければならなくなりました。そうなると被験者の親子は邪魔になります。知りすぎてしまったのです。
なので端的にヨハンナが殺された理由を言うと『ガリンカ計画』というCIAのタブーを知りすぎてしまったからという風に言えます。
ちなみにこの計画の被験者はヨハンナ達だけではなく、他に19組の被験者がいました。しかし、この19組の被験者はいずれもマリッサにより殺されています。つまり、ハンナはガリンカ計画の唯一の生き残りなのです。
マリッサはもはやただの大量殺戮者です。作中彼女が精神的に不安定なように見えるシーンがあるのですが、その被験者親子と作中の殺された人間を足しても軽く40人以上殺してることになるので精神に異常をきたすのも頷けますよね。
彼女が顔色一つ変えずに人を殺すシーンは本当に恐ろしかったです。
ヨハンナとエリックの関係性は?
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ここまで読んで頂いたら分かると思いますが、エリックはハンナの本当の父親ではありません。ヨハンナは堕胎を望んでいたくらいですから、本当の父親がここまでハンナを育ててくれるとは考えにくいですよね。
実はエリックはヨハンナにガリンカ計画の協力を頼んだ張本人なのです。しかし、先程も述べたようにガリンカ計画は倒れ、被験者は転じて抹殺対象になります。
ハンナはエリックが命からがら助け出すことが出来た子なのです。厳しく教えた語学もサバイバル技術も油断の恐ろしさも全て来ることが予想されたマリッサとの決戦にハンナが打ち勝つための殺人術だったのです。
厳しいのは愛情がないからではなく実の父親以上にハンナを愛していたためだったのです。まぁ、普通に考えて元々文明人だった彼が人里離れた雪深い森で他人の子に14年も自分の持つ限りの技術を叩き込み、育てるなんてよほどの愛情がなきゃ無理ですよね。
つまりエリックとヨハンナは赤の他人ということになりますね。しかし、赤の他人の子供のためにここまでできるのでしょうか?
何故エリックはヨハンナを助けたの?
では何故エリックはヨハンナを助けたのでしょうか。ちなみにエリックは外の世界ではヨハンナを殺した罪で指名手配中です。(もちろん殺したのはマリッサでエリックではありません。)
ここからはただの憶測になりますので参考程度にしてください。おそらくヨハンナとエリックは恋愛関係だったのかと思われます。しかしエリックは同時並行なのかヨハンナと関係する前なのか分かりませんがマリッサとも恋愛関係にありました。
何故ヨハンナとエリックに関係があったと言えるのか。作品の序盤にあるマリッサの回想シーンではヨハンナとエリックとハンナは車で一緒に逃げています。いくらCIAの有能な職員でもヨハンナと逃げるのは自殺行為ですよね。ここで深い関係だったことが読み取れます。
また、ヨハンナの母(作中マリッサに殺されます)がエリックを知っていたこと。娘を殺した男としてではなく、エリックをちゃんと知っていた風でした。
ただの協力者と依頼者の関係でそれは不自然でしょう。ヨハンナは一度母親とエリックを会わせているのかもしれませんね。
マリッサとエリックの関係が読み取れる箇所ですが、作中にマリッサとエリックが電話をするシーンがあるのですが上司と部下の関係だったからかもしれませんが妙に親し気に話していました。上司部下以上の関係だったことは間違いありません。
マリッサは個人的にヨハンナが憎かったのかな?と思えるシーンもあります。
ヨハンナの母が「孫(ハンナ)に会ったんだね。どんな子になっていた?」と尋ねるシーンがあります。マリッサは彼女に銃口を向けながら忌々し気に「母親そっくりよ。」と言い捨てます。
マリッサの殺人仕事は主に汚れ仕事専門のアイザックスが行っています。したがってガリンカ計画のヨハンナ達以外はアイザックスに殺されたことが予想されますが、ヨハンナだけはマリッサに殺されています。
冷静な彼女が感情をあらわにするほど憎かったヨハンナ。そこまで憎む要因はやはり恋愛が絡んでいると考えるのが自然ではないかと思います。
まとめ
美しいが、感情が一部欠落しているハンナ。しかし、彼女は作中で人と関わることで人間らしさが垣間見えます。
反対にマリッサは罪を重ねるたびに人間の感情から離れていきます。かつて自分が指揮をとっていた『ガリンカ計画』の兵士の様になっています。
しかし、マリッサがこうなったのはガリンカ計画で子供たちに欠落させた憐れみと慈しみの最大値である「恋愛感情」だとすると、マリッサとハンナの在り方の対比はとても皮肉めいていると感じます。
先にも挙げたように「グリム童話」がこの作品のメタファーになっているのも面白い点です。最初も童話の国フィンランドから始まってますしね。
グリム童話を知ってる方だと更に面白く見ることが出来るかもしれません。
この話を見てると一番幸せだったのはもしかしたらヨハンナかもしれませんね。
マリッサはヨハンナを殺した後も『ガリンカ計画』にまるで呪われているかのように運命を翻弄されています。
しかし、ヨハンナは堕胎を考えていたにも拘らず子供を生める。その上、生前懇意にしていたであろうエリックにその最愛の娘を立派に育ててもらっているのです。
この話では徹底してマリッサが不幸なのも童話をメタファーにしているからこそなのかもしれません。童話では悪役に同情の余地を許しませんから。
ドラマは今アマゾンプライムでシーズン2まで出ています。こちらの作品の評判も上々です。映画とはストーリー的な相違点も多いです。映画と併せて是非ご覧ください。
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